【歯学部受験応援コンテンツ】歯科医師の未来について

現役の歯科医師が考える、今後の歯科医師の在り方について。

デンタルケア

 

■はじめに

現在の日本は、少子化により高齢社会に向かって進んでおります。

平成28年には75歳以上の高齢者は、前年比約60万人増のおよそ1700万人で、日本人全体の15%弱を占めています。そして、80歳以上に限ってみてみると、およそ1050万人で前年比50万人弱の増加になっています。

この傾向は今後も続くと見られており、人口に占める高齢者の増加に伴って歯科を受診する患者も年々高齢化しています。

今回は、社会構造の変化に伴う歯科医師の未来像について考察してきたいと思います。

 

■歯科診療内容の変化

○高侵襲処置の増加

以前は、う蝕や歯周病によって保存が難しそうであれば、早期に抜歯していた模様ですが、現在は8020運動によって喪失歯を極力減らし、歯を保存するようになりました。

それによって、歯科診療の内容も変化しています。

喪失歯が多かった頃は、義歯という低侵襲の処置で対応できていたのですが、現在では基礎疾患を有する高齢者に対しても、抜髄、歯周外科、抜歯、インプラントなどより侵襲度合いの高い処置が求められるようになりました。

 

○粘膜疾患の増加

歯医者の治療のイメージは、昔ながらのう蝕や歯周病などの歯の疾患だけに限られなくなりつつあります。

現在、QOLの視点からも、う蝕や歯周病だけでなく種々の口腔粘膜疾患への関心が高まりつつあります。

口腔乾燥症、舌痛、味覚異常、口腔がん、がんの手術後の機能回復、顎関節脱臼などの知識と技術も求められるようになっています。

う蝕や歯周病に限らず、幅広い口腔疾患の知識をもっていて当たり前といわれる時代がくることしょう。

 

■高齢者の心身状態に対する備え

○基礎疾患

高齢者には、循環器系疾患、脳血管障害、呼吸器疾患、代謝製疾患、肝疾患、精神疾患などをよく認めます。

症状の軽重によっては、歯科治療に制限が加わることがあります。しかも、自覚症状を気にすることなく生活している人も多いです。

基礎疾患に関する知識と、それに基づいた問診や処置が求められています。

 

○突然死

医学的にきちんと管理され、入院下で処置をしていても、高齢患者が突然死を起こすことがあります。

歯科治療中に突然死が起こった場合、歯科治療との因果関係を詮索され、歯科医師の感じるストレスも大きくなると予想されます。

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳血管系疾患など高齢者にはよくみられますし、心疾患による突然死は、症状発現から1時間以内に起こります。しかも救急搬送しても救命は非常に難しいです。

歯科治療と因果関係がなくても、突然死に遭遇することは十分考えられます。

今後は、大丈夫だろうと患者を安易に捉えず、少なくとも観血的処置を行なう際には生体情報モニターをセットし、情報を読み取るだけでなく、バイタルサインの変化から手術を続行するか中止すべきかの判断を的確に行なえる技量が要求されていくことでしょう。

 

■地域包括ケア

地域包括ケアとは、30分程度の範囲内を日常生活圏内とし、その圏内で『住まい』『予防』『生活支援』『介護』『医療』を完結させる概念です。

これにより、日本の医療が『治す医療』に加えて『生活を支える医療』が必要とされるようになりました。

 

○地域包括ケアにおける歯科の位置づけ

出来る限り自立した生活をおくるために、生活習慣病などの予防への取り組みが必要とされています。

特に重要となるのが、『食べる力』です。従来からの歯科疾患の治療から、摂食嚥下障害にいたる口腔機能の維持が大切になってきます。

こうした視点に基づいた歯科医療が求められています。将来の歯科医師には、確実にこうした視点で総合的に診療を行なうスキルが要求されていくことでしょう。

 

■周術期口腔機能管理

平成24年度の診療報酬の改定以降、周術期口腔機能管理が認められるようになりました。

当初は、がん患者の全身麻酔下での手術、化学療法、放射線療法を行なう際の合併症の予防や軽減目的から始まりましたが、全身麻酔下の手術へと適応範囲が広がりつつあります。

歯科には、入院前から入院中、退院後に至る口腔ケア、専門的口腔衛生処置、義歯不適合や動揺歯などへの対応が求められています。

この傾向は、今後も拡大しながら続いていくと思われ、歯科医師と医師との連携がますます重要になっていくことと思われます。

 

■統計学的知識

ご存知の通り、年々、社会保障費が増加しています。

診療報酬もこれまで通り、順調に増加していくことは難しくなりつつあります。

そんな中でも、歯科医師が歯科疾患の重要性を主張していくためには、客観的な根拠に基づいて、アピールしていく必要があります。

そこで求められるのが、統計学のスキルです。

歯科医師にも統計学に精通していることが求められていくことでしょう。

 

■まとめ

いままでの歯科には、う蝕治療や歯周病の治療、いわゆる歯の治療が求められていました。

ところが、高齢社会に代表される社会構造の変化は歯科医師にも波及し、歯科医師には単なる歯医者を上回り、口腔機能のプロフェッショナルとしての役割が求められるようになりました。

それを反映して、診療報酬の改定でも、口腔機能の管理により重点が置かれるようになりつつあります。

単に歯を治すのではなく、口腔全体をひとつの臓器と捉え、包括的に治療を行なうのが歯科医師のあるべき将来像といえるかもしれません。

 

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