歯科医師の就職先は無限大!医療・教育・企業まで、多彩な可能性を最大限に活かす方法
はじめに
歯科医師の就職先は、皆さんがぱっと思い浮かべるであろう開業医や勤務医の他にも、産業医や医系技官など意外と様々なものがあります。
歯学部生は臨床に携わる場合には歯科医師国家試験合格後、決められた施設で一年以上臨床研修を行った後に歯科医師としての進路を選択することとなります。今回はそんな歯科医師の就職先についていくつか見ていきましょう。
開業医
地域で見られるデンタルクリニックなどを開業した院長を指します。
開業の流れとしては、実家の歯科医院などすでに営業している医院を引き継ぐ場合と銀行から資金を借りてゼロから始める場合があります。
医院を引き継ぐ場合は既存体制の修正、ゼロから始める場合は資金繰りや法・税金関係の事務手続き、規模が大きくなった時には医療法人化などと悩みは尽きませんが、保険診療や訪問診療を中心に据えた地域密着型クリニックや歯の健康に理解がありストレスなく診療できるであろう顧客層を狙った自費診療や予防歯科中心の高級志向クリニックなど自分好みに歯科医院のコンセプトを決めることができ、安定した営業ができるようになれば収入も豊かになるなど夢があります。
勤務医
デンタルクリニック、歯系大学病院、医系病院の口腔外科、介護施設等に勤務する歯科医師を指します。
歯科診療技術を活用しようと思う人はおそらく皆一度は勤務医として臨床経験を積むことになるでしょう。歯系大学病院に勤務すると所属が分野ごとに分かれるようになり、保存や補綴、矯正、口腔外科などおなじみの歯系診療科のみでなく歯科放射線科や口腔病理なども含めて専門性の高い診療を行うことができるようになります。
デンタルクリニックでは地域に根差した総合的な診療をできることが特徴です。医系病院の口腔外科や介護施設では口腔ケアも一大業務となり、口腔領域と全身との関連を切に感じることとなります。訪問歯科、学校健診などは大学でもクリニックでも行っていますが、地域によって住みわけの異なることが多いため、希望する場合は予防歯科担当の教員など大学の先生に相談しましょう。
上下関係があったり給与が少なめになりがちだったりと悩みもありますが、自身のやる気次第でとにかく多岐にわたる経験を積むことができ、比較的身軽に転職できる立場でいられることが多いのが魅力です。
歯科技官
行政の一員として、保健医療に関わる制度づくりにおいて歯科の立場から意見する仕事です。
他に行政と関わる仕事としては、保健所での健診業務や自衛隊員の歯科診療、災害復興、国際協力も挙げられます。
公務員となるため労働時間が長くならざるを得なくなったり兼業など様々な制限を課されたりと悩みはありますが、歯科診療について正しく理解している人の少なさ故に保険点数が低く定められがちな現状において、当該診療行為にかかる労力を正しく評価して歯科医師という職業集団の権利を守るやりがいの大きい大切な仕事です。
研究者
大学院に入り、最終的には教授を目指して大学の役職を駆け上がることがメインになります。
臨床系の分野では大学病院での診療を行いながら臨床で役に立つ技術の開発を行うこと、基礎系の分野では特定現象の解明について研究を行うことが多くなりがちです。
基礎系の場合歯科ならではの題材を扱わなければ医科研究室から出たものよりも論文による評価のハードルが高くなりがち、給与が少なめになりがち、学生の教育も任される、教授になると管理業務が多くなり興味のある仕事をする時間が減るなど悩みも多いですが、医療について学びを深めて臨床に活かすことを実感できる、最先端の医療を作り出す一員になれる、成果によっては特許をとったり賞をとったりして収入が潤うこともあるなど他に代えられない体験をできる仕事です。
法歯学者
東日本大震災の身元不明遺体個人識別で歯科所見が有用だったことをきっかけに急速な発展を遂げた仕事です。
研究者と行政双方の性質を兼ね備え、日常的な業務としては法医解剖の際に歯科所見を採得し、歯の発生時期や切歯縫合閉鎖時期など歯科領域から述べられる所見を意見すること、死因究明や個人識別を効果的に行う方法などについての研究などが挙げられます。警察との協力が多くなります。
産業歯科医
企業の福利厚生の一つとして配置されている歯科医師であり、社員の歯科診療を行います。
医科よりも産業医と認められる手続き上のハードルが低いため、医科よりも話題に上がりがちな印象があります。
以前は銀行や新聞社など安定した企業が産業医を多く設置していましたが、現在はキャッシュレス決済やネットニュースの台頭に伴い銀行や新聞社が以前と比較すると勢いを失いつつあること、産業医を設置するよりも外部の歯科医院に健診業務を委託したり歯科検診に対する補助金を支給して社員に自由に歯科受診してもらったりする方が簡便でコストを抑えられることから、需要は減少しているのかもしれません。
歯科関連企業の会社員
歯ブラシや歯磨き粉からデンタルチェアに至るまで、歯科関連の製品は多岐にわたります。
そんな歯科関連企業に意見を述べる役割として歯科医師もおります。
こちらにおいても、意見が必要な場面で外部の歯科医師に依頼する形式が主流になりつつあるため需要は減少しているのかもしれません。
歯科国試予備校講師
講師として歯学部生の定期試験やCBT、国家試験をサポートする仕事です。
歯学部の学習を全般的にサポートできるのは基本的に同じく歯学部を出た人間に限られますが、2020年の医師・歯科医師・薬剤師統計によると届出歯科医師数は107443人と、届出医師(339623人)の1/3程度しかおらず、サポートが必要な歯学部生も少ないとはいえ教えられる人も少ない状況です。
歯科の勉強が得意だと思う方は後輩を育成すべく予備校講師について考えてみてもいいかもしれません。
まとめ
以上、紹介した進路についていかが思いましたでしょうか。歯学部高学年では4~5年生でCBT・OSCE・研修施設の見学(個人的に行う)があり、5~6年生で臨床実習・卒業試験・臨床実地試験・技能試験・研修施設のマッチング試験・国家試験が怒涛のようにやってきます。
将来すすむ方向性によって希望の研修施設を考えたほうが臨床研修をより有意義なものにできるかと思うので、忙しくなりだす前、低学年のころから将来すすむ方向性について考えてみてもいいのではないかと思います。病院見学は医院ごとの個性の違いが分かり、人脈もできるので必要に合わせて積極的に行いましょう。
また、この記事を読んでいる歯学部生の中にも、もしかしたら接客が苦手、血が苦手、患者の期待を預かる責任感が苦手など様々な理由でいわゆる臨床が苦手な人がいるかもしれません。そんな人たちはきっと学年が上がるごとに将来への不安を抱いていることでしょう。この記事を読んで、色んな道が選べるんだと、少しでも助けになれば幸いです。