【国家試験講評】第115回歯科医師国家試験

第115回 歯科医師国家試験

 

はじめに

周知の通り、年々歯科医師国家試験の難易度は上がってきている。これは単純知識のみで解答できる問題が減り、その場で思考するタイプの問題が年々増えているからであろう。

実際に、思考型問題が増えた第114回における各領域のボーダーをみると全体的にかなりボーダーが下がっていることがわかる(そもそも第114回は不適切問題が多かったこともあるが)。
先日行われた第115回においても、単純知識で即答できる問題は多くなかった印象がある。さて、それでは具体的にどの様な勉強を行えば合格に近づくのか見ていこう。

 

第115回各領域における講評

1.必修

特徴

恐らく、受験生が最も怖がるのが必修問題なのではないか。というのも、他の領域と異なり必修は絶対評価(64/80)である。しかも、年々解きにくい問題が増加している。第114回がいい例である。この年は削除問題や、必修問題としては不適切な問題が14問もあった。第115回では易化したという意見もあるが、即答できない問題も確実に含まれており、依然として必修対策が必要であろう。

 

有効な勉強法

まず、大前提として過去問に載っている問題は完璧にしておきたい。話はそれからである。見慣れない問題に対してどう対処するかが合否を分けるが、普段から思考力を鍛えている人にとっては八割とるのはそう難しくないだろう。逆に言えば、普段からキーワードに飛びつき、即答してしまう人は大注意である。是非、普段の模試や過去問演習を通じて考える癖を身に着けてほしい。

 

いわゆる難しい問題

某予備校のデータを借りて、第115回必修で正答率が振るわなかった必修問題をいくつか挙げよう。

A11(心臓の解剖について)、A14(高LET放射線について)、B13(組織荷重係数について)、B17(歯髄壊死の変色原因について)、C15(肺への影響が大きい放射線について)、D19(求心性ニューロン細胞体の存在位置について)

 

これらは過去問題では見慣れないが、必ず低学年の基礎講義で触れられているはずの内容である。このような問題をどれだけ得点できるかが必修の合否を決める可能性があるため、過去問演習が終わった人は低学年のレジュメを見直してみるといい。一定の知識が入っている状態でレジュメを見直すと理解が深まる場合も多々ある。

 

2.領域A(歯科医学総論)

特徴

主に衛生・基礎系科目・臨床系科目の総論分野を指す。基本領域Aにおいては単純知識で解答できる問題が大半である。その傾向は第115回においても変わらず、ここで失点してしまうと大きな痛手となる。とはいえ、単純知識で何とかなってしまう分野だからこそ、暗記を面倒くさがる受験生にとっては勉強が疎かになりやすい分野なのではなかろうか。

 

有効な勉強法

基本的に数多くの過去問を繰り返し解くことが一番の近道だろう。また、各問題の誤答肢についてもしっかりと目を通す必要がある。これは、その年の誤答肢が翌年の正答肢として出題されることが度々あるからである。過去問や模試などで知らなかった薬の名前や、スクリーニング検査などにおいては一度調べておいて損はないだろう。

 

注意すべき科目

基礎系科目においてはCBTレベルの知識で解答できる問題も多いが、一方で注意すべきなのが衛生分野である。特に時事問題や、高齢者分野と絡めた問題は難易度が上がりやすいので注意が必要である。

今年の問題で言えば、A65(ロコモティブシンドロームが初めて正答肢になった)、B52(SDGsについて)、D22(介護保険制度における各サービスについて)などが目新しい問題であった。これらの問題は、各予備校の模試でも出題されているので、しっかりとそれらを復習することで対応はできると思われる。

とはいえ、医療計画や法律に関する問題については過去問でしっかり勉強していれば十分対応できるはずので、まずはその様な基本問題を確実に得点することが望ましい。

 

3.領域B

特徴

主に歯周病学、小児歯科学、歯科保存学、歯内治療学、歯科矯正学の5科目である。難易度が落ち着いている年がほとんどであるが第114回では著しくボーダーが下がった。

 

有効な勉強法

過去問に載っている問題をしっかりと理解していれば、5科目ともに安定した点数が望める。しかし、逆に一問のミスが命取りになる領域であるとも言える。また、第114回においては、ガッタパーチャポイントの断面図に関する問題(実は教科書に載っている写真と酷似している)や、イスムスに関する問題、FGF-2の禁忌症例に関する問題など、しっかりとその場で思考するタイプの問題も出題されている。これらの問題に対応するためには、しっかりと教科書を読んでおく必要があるだろう。

 

4.C領域

特徴

毎年のように受験生を苦しめるのがこのC領域である。主に、口腔外科学、歯科麻酔学、歯科放射線学、高齢者歯科学、全部床義歯学、部分床義歯学、冠橋義歯学、インプラント学が含まれる。補綴科目は全科目の中で最も点が安定しにくい。故に、前者4科目においてきっちりと得点することが必須である。というより、補綴以外の科目で失敗してしまうと合格はまず難しい。

 

有効な勉強法

点が安定しにくい領域とはいえ、まずは過去問をしっかりやり込むことである。そうすれば、合格点をとることは可能である。第115回においては、特別目新しい問題は出題されなかったが、それでもやはり補綴分野(臨床問題)が難しい。そして、インプラント学においては、インターナルとエクスターナルの比較が出題されたりと、今後も新傾向の問題が出題される確率は高い。補綴分野に関しては、過去問演習に加えてしっかりと教科書を読み込むことが必要である。

 

注意したい問題

補綴分野に関しては定番問題も多かったが、A51・A82・B31・D60・D62あたりに関してはその場での思考力が試されたのではないか。また、高齢者歯科においては鼻カニューレの吸入酸素濃度に関する問題が出題されたりと、社会情勢を意識した作問もあった。他の科目は、過去問だけでも十分得点が望める程度の難易度であった。

 

まとめ

最初に述べたとおり、年々歯科医師国家試験が難しくなっていることについては既にご存知の受験生も多いだろう。

勿論、勉強量を増やせば自ずと合格することにはなるのだが、当然のこと皆同じように勉強してくる。すると周りと差をつけるためには、どのくらい勉強するのかではなく、どの様にして勉強するかが重要になってくる。この解答はシンプルである。

教科書を読み込むこと、ただこれだけが最も簡単かつ確実な合格への近道であろう。何故ならば、国家試験は教科書からしか出ないからである(しかも、複数の教科書に記載されている内容でなければ出題できないというルールがある)。

 

しかし、意外にもこの事実を軽視している学生、受験生は多い。過去問演習のみだとか、過去問に加えて予備校の対策講座をとるだとか、その程度の対策しかしていない人がかなりいる。出題委員は、この様なやり方を嫌うからこそ、過去問のみで勉強している人や、真面目に臨床実習で学んでいない人では解けないような問題を好んで作るのである。

実際に、配点の高い臨床問題においては、治療の手技・手順に関する問題など臨床現場を想起させるものが確実に増加しており、もはやこの様な勉強法では対応不可能な時代となりつつある。

 

要は、過去問+教科書+適度な予備校講座(教科書をしっかり使っている人にとっては必要ない)によりやっと合格は実現される。長くなりましたが、この講評を読んで一人でも多くの受験生が合格に近づくことを祈願しています。

最後に、絶対に教科書を読むこと。