歯科診療所の売上高1兆円突破|業績二極化・利益率低下から読む歯科医院の未来【2026年】

歯科医師国家試験・社会歯科学/歯科医療制度

歯科診療所の売上高が1兆円を突破
利益率低下と二極化から読む歯科医師国試の重要論点

2025年、調査対象となった歯科診療所6,590社の売上高合計は1兆円を超えました。しかし、グラフを時系列で計算し直すと、売上高の拡大だけでは説明できない「利益率の低下」が見えてきます。本記事では、歯科医院経営のニュースを、歯科医師国家試験で問われる社会歯科学、診療報酬、地域歯科医療、歯科技工、デジタル歯科、高齢者歯科へ結びつけて解説します。

先に結論

歯科医療市場は単純に縮小しているのではなく、売上を拡大しながら収益構造が厳しくなり、医院間の差が開いていると読むべきです。

2021年から2025年に売上高は約14.6%増えましたが、純利益は約36.4%減少しました。算出した純利益率は約5.33%から約2.95%へ低下しています。これからの歯科医師には、治療技術だけでなく、予防・継続管理、在宅・高齢者対応、医科歯科連携、歯科技工士との協働、デジタル技術、医療安全を一体として理解する力が必要です。

1.調査結果を5つの数字で整理

2025年売上高合計

1兆282億円

前年比3.8%増

2025年純利益合計

303.8億円

前年比4.1%増

売上5億円未満

95.8%

6,314社

増収/増益企業

57.37%/48.25%

売上と利益に9.12ポイント差

休廃業・解散

125件

倒産26件の約4.8倍

注意:この調査は、東京商工リサーチの企業データベースから、2025年の業績を最新期として5期連続で業績が判明した6,590社を抽出したものです。全国すべての歯科診療所を集計した数字ではなく、個人開設を含む歯科診療所全体の悉皆調査でもありません。

2.グラフから見えるCES独自分析

公表グラフの売上高と純利益から、各年の「純利益÷売上高」を計算しました。元資料には純利益率として掲載されていない、CES歯科医師国試予備校による独自算出です。

売上高合計 純利益合計 算出純利益率
2021年 8,971億円 478億円 約5.33%
2022年 9,337億円 351億円 約3.76%
2023年 9,579億円 264億円 約2.76%
2024年 9,905億円 291億円 約2.94%
2025年 1兆282億円 303.8億円 約2.95%

独自分析1:市場は拡大したが、利益を残す力は2021年の水準に戻っていない

2021年から2025年に、売上高合計は8,971億円から1兆282億円へ約14.6%増えました。一方、純利益合計は478億円から303.8億円へ約36.4%減っています。純利益率は約5.33%から約2.95%へ2.38ポイント低下し、相対的には約44.6%縮小しました。

2024年と2025年には利益が回復していますが、2021年の収益性には届いていません。「売上高が1兆円を超えた」ことと、「各医院が経営しやすくなった」ことは同義ではないのです。

独自分析2:増収企業と増益企業の9.12ポイント差は、コスト圧力を示す

2025年に増収だった企業は57.37%でしたが、増益企業は48.25%にとどまりました。両者の差は9.12ポイントです。個社ごとのクロス集計は公表されていないため、「その9.12%がすべて増収減益企業」と断定することはできません。しかし、母集団全体では、売上の伸びが利益の伸びへつながりにくい構造が表れています。

背景として考えられるのは、人件費、歯科材料、医療機器、消耗品、外注技工料などの上昇です。保険診療では医療機関が価格を自由に決められないため、一般企業のようにコスト上昇分を即座に価格転嫁することが難しい点も重要です。

独自分析3:黒字66.4%でも安心とはいえない

2025年の黒字企業は66.4%ですが、減益企業は51.49%です。「黒字か赤字か」は現時点の状態を示し、「増益か減益か」は前年からの方向を示します。黒字を維持しながら利益が減っている医院が一定数含まれる可能性があり、二つの指標を分けて読む必要があります。

また、休廃業・解散は125件で、倒産26件の約4.8倍でした。資金繰りが破綻する倒産だけを見ていると、後継者不在、院長の高齢化、投資負担などを背景にした「静かな退出」を見落とします。

独自分析4:1社平均は「典型的な医院」を意味しない

単純平均では、2025年の1社当たり売上高は約1億5,600万円、純利益は約461万円です。ただし、売上高10億円以上の事業者も含まれるため、この平均値を一般的な個人歯科医院のモデルとみなすことはできません。

実際には、売上1億円未満が49.9%、1億円以上5億円未満が45.8%で、5億円未満が95.8%を占めます。歯科医療は地域密着の小規模事業者が大半を占める一方、デジタル機器や診療設備には一定規模の投資が必要になるという、構造的な難しさがあります。

3.歯科業界で起きている構造変化

治療中心から、予防・継続管理へ

う蝕や歯周病を処置して終了するモデルだけでなく、定期管理、重症化予防、口腔機能の維持を通じて患者と長期的に関わる役割が大きくなっています。これは単なる集患策ではなく、健康寿命、フレイル予防、全身疾患管理にもつながる歯科医療の質の転換です。

高齢化対応は「訪問診療」だけではない

高齢患者では、多疾患併存、服薬、認知機能、栄養、摂食嚥下、口腔機能低下を総合的に評価する必要があります。診療室内の補綴治療だけでなく、在宅・施設、医科、介護職、管理栄養士、歯科衛生士との連携まで含めて考えることが求められます。

デジタル化は機器導入ではなく、診療工程の再設計

口腔内スキャナー、光学印象、CAD/CAM、3次元プリントは、精度や効率だけでなく、適応判断、材料特性、咬合、データ管理、患者説明、歯科技工所との情報共有まで変えます。高価な機器を導入すれば競争力が生まれるのではなく、臨床知識と運用能力が伴って初めて価値になります。

「自費診療を増やせば解決」という単純な話ではない

自費診療は選択肢の一つですが、適切な適応、十分な説明と同意、代替治療の提示、費用の明確化、治療後の管理が前提です。経営上の必要性が臨床判断をゆがめてはなりません。歯科医師国家試験でも、患者中心の医療、医療倫理、インフォームド・コンセント、医療安全が基盤になります。

4.2026年度診療報酬改定との接続

厚生労働省の令和8年度診療報酬改定資料を見ると、業績調査で示された課題と制度の方向性が重なります。

改定項目 制度上のポイント 国試で結びつける領域
歯科技工所ベースアップ支援料 1装置につき15点を新設。施設基準を満たす医療機関は、支援料を歯科技工所への委託費増額に充てる。 歯科技工指示書、補綴物製作、多職種連携、医療提供体制
歯科技工士連携加算 補綴時診断、印象採得、光学印象、咬合採得、仮床試適など一連の診療で連携評価を拡充。 補綴診断、色調・咬合・適合、情報通信機器を用いた連携
光学印象 対象をCAD/CAM冠へ拡充し、評価を100点から150点へ見直し。 口腔内スキャナー、CAD/CAM、デジタルデータ、適応判断
3次元プリント有床義歯 1顎4,000点を新設。院内装置の有無に応じ、歯科技工士配置または歯科技工所との連携を求める。 有床義歯、材料、製作工程、施設基準、技工連携
地域歯科医療加算 歯科医療提供が困難な地域で、都道府県等と連携した歯科巡回診療車による診療を評価。 地域偏在、医療計画、へき地歯科医療、公衆衛生

国試対策の核心:診療報酬の点数だけを暗記するのではなく、「なぜ評価が新設・拡充されたのか」を考えましょう。そこには、人材確保、技工連携、デジタル化、地域偏在、高齢化という歯科医療政策上の課題があります。

5.歯科医師国家試験でどう学ぶか

令和9年版歯科医師国家試験出題基準は、第120回試験から適用されます。経営数値そのものが出題されるとは限りませんが、数字の背景にある歯科保健医療の変化は、複数領域を統合する素材になります。

ニュースの論点 国試領域 確認すべき知識
定期検診・予防の拡大 社会歯科学、予防歯科学、歯周病学 一次・二次・三次予防、リスク評価、継続管理、保健指導
高齢化対応 高齢者歯科、摂食嚥下、在宅歯科 口腔機能低下症、オーラルフレイル、要介護者、訪問診療、多職種連携
デジタル歯科 歯科補綴学、歯科材料学、医療情報 CAD/CAM、光学印象、材料選択、咬合支持、データ保護
歯科技工所との連携 補綴、関係法規、チーム医療 歯科技工指示書、責任分担、情報共有、品質管理
休廃業・事業承継 地域歯科保健、医療提供体制 地域偏在、受療機会、かかりつけ歯科医、医療計画
自費診療 医療倫理、医療安全、患者対応 説明と同意、代替案、費用説明、利益相反、患者中心性

臨床実地問題への変換例

例:独居で糖尿病を有する高齢患者が、義歯不適合と食事量低下を訴えて来院した。通院継続も難しくなっている。

この一例から、義歯調整だけでなく、栄養状態、口腔機能低下、摂食嚥下、糖尿病と歯周病、服薬、訪問歯科診療、医科・介護との連携、歯科技工士との情報共有まで考えられます。ニュースを国試に生かすとは、経営用語を覚えることではなく、社会の変化を患者の臨床問題へ変換することです。

6.確認テスト

各設問を考えてから「解答・解説を見る」を開いてください。

第1問 2021年から2025年の業績推移について正しいのはどれか。

A.売上高と純利益は同じ割合で増加した
B.売上高は増えたが、純利益は2021年を下回った
C.2025年の算出純利益率は10%を超えた
D.2023年の純利益は2021年を上回った

解答・解説を見る

正答:B。売上高は約14.6%増えましたが、純利益は約36.4%減少しました。売上高の増加だけでは収益性を評価できません。

第2問 2025年の増収企業比率と増益企業比率の解釈として適切なのはどれか。

A.増収企業はすべて増益である
B.増益企業の方が増収企業より多い
C.売上の伸びが利益の伸びにつながりにくい可能性が示される
D.個社別データがなくても増収減益企業数を正確に算定できる

解答・解説を見る

正答:C。比率の差は9.12ポイントですが、個社クロス集計がないため増収減益企業数を正確には算定できません。

第3問 歯科技工所ベースアップ支援料の理解として適切なのはどれか。

A.歯科医療機関の一般利益として自由に使える
B.委託先歯科技工所の賃金改善を支援する趣旨である
C.院内歯科技工士だけを対象とする
D.補綴治療とは無関係である

解答・解説を見る

正答:B。施設基準を満たす医療機関は、支援料を歯科技工所への委託費増額に充てます。

第4問 デジタル歯科を学ぶ際に最も適切な姿勢はどれか。

A.機器名だけを暗記する
B.導入費用だけを比較する
C.適応、材料、咬合、製作工程、情報管理を関連づける
D.歯科技工士との連携は不要と考える

解答・解説を見る

正答:C。デジタル技術は臨床工程全体に関わります。装置の知識だけでなく、適応判断と医療安全を含めて理解します。

第5問 倒産件数だけでは把握しにくい歯科医療提供体制上の課題はどれか。

A.休廃業・解散と事業承継
B.歯式の表記
C.エナメル質の組成
D.局所麻酔薬の作用機序

解答・解説を見る

正答:A。2025年の休廃業・解散は倒産の約4.8倍でした。地域の受療機会を考える際は、後継者不足を含む退出全体を見る必要があります。

第6問 自費診療の説明として最も適切なのはどれか。

A.医院の利益が見込めれば適応判断は不要である
B.代替治療や費用の説明は不要である
C.患者中心の適応判断と十分な説明・同意が前提である
D.治療後の継続管理は行わない

解答・解説を見る

正答:C。経営上の事情より患者の利益を優先し、適応、代替案、利益・不利益、費用、治療後管理を説明します。

7.まとめ

1.調査対象6,590社の2025年売上高は1兆円を超えました。

2.一方、CES独自算出の純利益率は2021年の約5.33%から2025年の約2.95%へ低下しました。

3.増収企業57.37%に対して増益企業は48.25%で、売上と利益の間に差があります。

4.休廃業・解散は倒産の約4.8倍で、事業承継と地域の歯科医療提供体制が課題です。

5.国試では、診療報酬、技工連携、デジタル化、高齢者・在宅、予防、医療倫理を患者の臨床問題として統合しましょう。

8.CES歯科医師国試予備校のコース

CES歯科医師国試予備校では、歯科医師・専門講師が完全マンツーマンで指導します。制度や社会歯科学を単独で暗記するのではなく、補綴、歯周病、高齢者歯科、医療安全などと横断して整理します。

歯科医師国家試験対策コース現役生・既卒生の弱点を個別に整理

進級・卒業試験対策コース大学別の試験範囲・再試験にも対応

CBT・OSCE対策コース知識と臨床技能を段階的に習得

リメディアルコース生物・化学・基礎医学から立て直し

社会歯科学・制度問題を得点源にしたい方へ

現在の学年、受験歴、苦手科目を伺い、必要な対策をご提案します。オンラインで全国から受講できます。

無料相談・お問い合わせ
受講料を見る

9.関連記事6本

2026年歯科診療報酬改定の国試重要ポイント継続管理、在宅、医科歯科連携、デジタル化を解説

令和9年版 歯科医師国家試験 新ブループリント完全解説第120回からの変更と学習戦略

歯科医師国家試験・最近5年の出題傾向思考力型問題への対応法を整理

歯科医師になるには歯学部選びから国家試験合格まで

歯科医師の多様な就職先とキャリア診療所、病院、教育、企業などの可能性

第119回歯科医師国家試験の結果分析合格率61.9%と今後の対策

10.参考資料・引用元

1.東京商工リサーチ「街の歯医者さん6,590社 売上高が1兆円を突破 売上5億円未満が95.8%、業績は二極化が鮮明に」(2026年7月13日)

2.東京商工リサーチ「サイトポリシー」

3.厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」

4.厚生労働省「令和9年版歯科医師国家試験出題基準について」

11.よくある質問

全国の歯科診療所すべての売上高が1兆282億円という意味ですか?

いいえ。5期連続で業績が判明した6,590社の合計です。全国すべての歯科診療所を対象とする悉皆調査ではありません。

売上高が増えているのに、なぜ経営環境が厳しいのですか?

人件費、歯科材料、消耗品、機器、外注技工料などが上昇すると、売上が増えても利益が残りにくくなります。保険診療では価格を自由に変更しにくいことも背景にあります。

歯科医院の経営数値は国家試験に直接出題されますか?

経営指標自体の出題を予測するものではありません。ただし、その背景にある診療報酬、地域歯科医療、在宅・高齢者歯科、技工連携、デジタル化、医療倫理は国試学習と深く関係します。

2025年の歯科診療所の純利益率は何%ですか?

公表された売上高合計1兆282億円と純利益合計303.8億円からCESが算出すると、約2.95%です。個々の医院の利益率を示すものではありません。

これからの歯科医師に特に必要な力は何ですか?

基本的な診断・治療能力に加え、予防と継続管理、高齢者・在宅対応、全身状態の評価、医科・介護・歯科技工士との連携、デジタル技術、患者への説明と医療安全を統合する力が重要です。

編集方針:本記事は歯科医師国家試験受験生・歯学部生の学習を目的に、2026年7月19日時点の公開情報を基に作成しています。

業績数値は特定の歯科医院の収益性や将来性を保証・評価するものではありません。診療報酬の算定は最新の告示・通知および個別の要件をご確認ください。